2010年11月5日金曜日

サヨナラダケガ人生ダ




勧 酒


勧君金届巵


満酌不須辞


花発多風雨


人生足別離


 


于 武陵(う・ぶりょう)/ 井伏鱒二訳


 


さらハあけましょ此盃て


てふとお請よ御辞儀ハ無用


花か咲ても雨風にちる


人の別れも此こゝろ


 


コノサカズキヲ受ケテクレ


ドウゾナミナミツガシテオクレ


ハナニアラシノタトヘモアルゾ


サヨナラダケガ人生ダ


 


井伏鱒二が林芙美子にすすめられて尾道へ行った折、やはり林芙美子にすすめられて、一緒に三ノ庄まで足を伸ばした。


島を離れる時、彼らを見送る人たちが十人ほど岸壁に来て、船の出発の汽笛が鳴ると「さようなら、さようなら」と手を振った。


林も頻りに手を振っていたが、いきなり船室に駆け込んで、井伏に「人生はさよならだけね」と言うと泣き伏した。


後に井伏は「人生足別離」を「サヨナラダケガ人生ダ」と和訳した。林芙美子の言葉(せりふ)を意識していたのである。


 
新井雅之





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