アメリカへ留学中の娘と連絡が取れない。もう、かれこれ一年にもなる。両親は心配のあまり、米国行きを決断した。アメリカに行ったところで頼れるあてがいない。インターネットを見ていたら、日系の元警察官が経営している探偵事務所があった。「これだ!」早速、両親はメールをしたためた。
捜査の結果、娘の居所が分かった。サンタモニカのホテルのロビーで、娘と会う約束をした。母は娘の変わり果てた姿に狼狽した。体中ピアスだらけ、鼻も、舌も、瞼も。そして昼間から酔っぱらっている。
日系の探偵も立ち会った。探偵は即座に気がついた。酒に酔っているのではない。麻薬中毒である。母は狂乱寸前。おもむろに娘の腕を引っ張った。母と娘は腕と洋服と互いに引っ張り合った。
娘のボーイフレンドが止めに入った。ボーイフレンドも顔中ピアスだらけ、ボーイフレンドは麻薬のディーラーだ。
一部始終を見ていたホテルのスタッフは、警察に通報した。母が逮捕された。探偵は警察官に抗議をした。
「娘が悪の道に入ろうとしているのに、母親が止めに入って当然じゃないか」
探偵は日本とアメリカの違いについて、説明をした。
本人の意思を尊重するアメリカでは、娘が自分の意思で帰ってこなければ、どうすることも出来ないと言われた。
両親は落胆した。二、三日経ってから探偵から連絡が入った。娘のボーイフレンドが交通事故で亡くなったという。
「娘を保護してください!」
娘は麻薬中毒専門の施設に隔離された。二年が過ぎた。両親は娘が社会復帰できるであろうかと心配であった。
日本へ帰る日が来た。空港のチェックイン・カウターの前で、娘はトイレに行くと言い出した。待てど暮らせど娘は帰ってこない。搭乗時刻が過ぎても帰ってこない。
四、五日経って娘から電話が掛って来た。娘は、
「今、ニューヨークにいるの、アメリカでもう一度やり直してみたいの」そう言って電話を切った。
十年の歳月が流れた。娘から電話があった。
「私、ファースト・レディーになったの」
本当なのか、再び麻薬に手を出して、幻覚を見ているのか誰にもわからない。
新井雅之
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