2010年12月23日木曜日

喜び




時おり出向く仕事先の近くに、たいそう繁盛しているメキシカン・ファーストフードの店がある。昼前から店先に客が並び始めて、正午を過ぎた辺りから目白押しになる。安価でボリュームがあって、旨いとくれば、栄えること受合いである。


ところが、「あの店は、どうもね」。異論を唱える者が多かれ少なかれいる。味覚には、その人の好みというものがある。万人から愛好される味を作り上げるのは容易ではない。と落ちを入れたいところだ。


実は、そうではなかった。少し離れた場所に、同じようなメキシカン・フードの店がある。店舗は件(くだん)の繁盛店よりも二回りほど小さい。ブリトーの味は何ら遜色がない。


仕事先のスタッフは、たとえ繁盛店が空いていたとしても、わざわざ足を伸ばして小さな店の方へ買いに行くという。


そのわけを訊ねてみると、小さな店でオーダーを受け付けているメキシコ系の女性の笑顔が、爽やかで非常に感じが良いからという答えが返ってきた。


なるほど、繁盛店の方は従業員一同、仏頂面をさげて突っ立っている。応対も粗雑で、全体の雰囲気がおろそかである。


小さな店のオーダーを入れるカウンターには、物腰の柔らかい、にこやかな女性が立っていて、親切に接客してくれる。如才のないてきぱきとしている挙措から、彼女のまめやかさが滲み出ているのである。


タコやブリトーを買い求めるだけで、欣快な気持ちになってくる。彼女の胸元に垂れ下がっている黄金色の十字架は、敬虔なカソリック信徒の証しなのだろう。莞爾(かんじ)として笑う彼女の表情をひとたび見たら、誰でもそのように思いたくなる。


きょうは、クリスマスイブ。「いつも喜んでいなさい」。聖書に綴られている一句が、僕の脳裏を星になってかけぬけた。





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