2011年5月2日月曜日

詩集/『時』/中尾照代




中尾照代さんが、この春に詩集を上梓された。詩集は二部構成になっており、読み応えのある詩が約二百二十篇収録されている。装丁は限りなく瀟洒にまとめられていて、表紙と見返しに配されている浅緑の色調は、著者の控えめな心情を彷彿とさせてくれる。


本詩集は私家版であるが、目次も奥付も附帯されていない。どうやら目次は作者の意向で、最初から省略するつもりでいたらしい。


そのようなことはさて置き、数々の詩篇がテーマに応じて躍動しているので、読者を惹きつける魅力を十分に秘めている。また、詩を一篇、二篇と読み進めていくうちに、それぞれの作品が、バラエティー溢れる独自の手法で描かれていることに気づかされる。


今、中尾照代さんは詩集『時』を携えて、現代詩壇へ清新な息吹を投げかけられた。


他者を「愛すること」。この深みのある愛の原点を座右の銘に、中尾照代さんは昨日も、今日も、そして明日も、詩を愛する如く、牧師夫人として世界中の人々に慈しみの手を差し伸べられている。このような彼女の真摯な姿勢から、詩集『時』は生まれたのである。


 


 



 


いさんで開けたら


その中に


きれいに並んだたくさんの虫がいて


それが次第に


棘のついた棍棒になり


氷石になり


毒針になって


私に飛びかかって来た


 


その怪物はみるみる巨大化して


私の胸をめった打ちにし


私の頭をズタズタにして


地面にたたきつけた


もう立ち上がれないほどに


 


親しい者から贈られた


紙切れの中にいた


恐ろしい怪物


 


 


 


キュウリ


 


噛じるキューリよ


おゆるしください


 


体のためでも


舌のためでもなく


ただ胸のにがさを


なだめるために


 


涙をふりかけ


噛じるキューリよ


私の非礼をおゆるし下さい


腹に着くまで忍んで下さい


 


 


 



深刻な顔をして


一人道を急ぐ犬に出会った


難事にぶつかった時の


人間の顔つきそっくりだった


 


どうしたの


どこへ行くの


思わず振り返って声をかけたが


犬はどんどん行ってしまった


 


そうだよなあ


人生にはいろいろあるんだよなぁ


見上げた空の


顔色が少し悪かった





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