中尾照代さんが、この春に詩集を上梓された。詩集は二部構成になっており、読み応えのある詩が約二百二十篇収録されている。装丁は限りなく瀟洒にまとめられていて、表紙と見返しに配されている浅緑の色調は、著者の控えめな心情を彷彿とさせてくれる。
本詩集は私家版であるが、目次も奥付も附帯されていない。どうやら目次は作者の意向で、最初から省略するつもりでいたらしい。
そのようなことはさて置き、数々の詩篇がテーマに応じて躍動しているので、読者を惹きつける魅力を十分に秘めている。また、詩を一篇、二篇と読み進めていくうちに、それぞれの作品が、バラエティー溢れる独自の手法で描かれていることに気づかされる。
今、中尾照代さんは詩集『時』を携えて、現代詩壇へ清新な息吹を投げかけられた。
他者を「愛すること」。この深みのある愛の原点を座右の銘に、中尾照代さんは昨日も、今日も、そして明日も、詩を愛する如く、牧師夫人として世界中の人々に慈しみの手を差し伸べられている。このような彼女の真摯な姿勢から、詩集『時』は生まれたのである。
手 紙
いさんで開けたら
その中に
きれいに並んだたくさんの虫がいて
それが次第に
棘のついた棍棒になり
氷石になり
毒針になって
私に飛びかかって来た
その怪物はみるみる巨大化して
私の胸をめった打ちにし
私の頭をズタズタにして
地面にたたきつけた
もう立ち上がれないほどに
親しい者から贈られた
紙切れの中にいた
恐ろしい怪物
キュウリ
噛じるキューリよ
おゆるしください
体のためでも
舌のためでもなく
ただ胸のにがさを
なだめるために
涙をふりかけ
噛じるキューリよ
私の非礼をおゆるし下さい
腹に着くまで忍んで下さい
犬
深刻な顔をして
一人道を急ぐ犬に出会った
難事にぶつかった時の
人間の顔つきそっくりだった
どうしたの
どこへ行くの
思わず振り返って声をかけたが
犬はどんどん行ってしまった
そうだよなあ
人生にはいろいろあるんだよなぁ
見上げた空の
顔色が少し悪かった
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