2011年5月5日木曜日

詩碑誕生




 2005年の秋、リトル東京のど真ん中に、重さ一・七トンの詩碑が建立された。大理石に刻まれている詩文は、加川文一(一九八一年、歿)の『海は光れり』(一九四一年、作)。


僕の目には、この艶やかな岩石のモニュメントが、『鉄柵』や『南加文芸』で活躍していた猛者(つわもの)たちの、友誼に厚い証としての金字塔に見える。


この『海は光れり』という詩は、冒頭の加川夫人の短歌も含めて、近代抒情詩の、そして移民文学の傑作である。


「きょうも海は光れり」。この脈々たる希望の精神は、文一の妻に対する限りない包容力の表明である。文一の絶唱は、これからリトル東京に憩う人々の、心のよりどころとなるに違いない。


除幕式では、『南加文芸』の同人であった山中真知子さんが、詩の朗読に入る前に、天国にいる加川文一に届けとばかりに、「加川文一、あなたの詩碑が建ちました。あなたが暮らしていた日本人街に建ちました…… 」切々と語る口調が、真に感動的であった。


『南加文芸』は不滅である。そして、この地に文学を愛好する者が、数多くいることを認識させられた。


夕べ、僕は独りで、色無き風のなかに佇み、文一の詩碑と対峙しながら、詩文を音読してみた。


 


 


妻よ


今日も海は光れり


人の住む陸を抱きて


するどく海は光れり


 


 


結びで感極まった僕の目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。


『詩碑仰ぐ一掬の涙秋深し』





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