修学旅行の宿で、一緒に煙草を吸っているところを先生に見つかり、一晩中正座をさせられた龍介は、事業に成功して世界中を股にかけて活躍している。
幼馴染の武史君はドイツに留学して、名の知れた音楽家になりつつある。
一緒に珠算塾へ通っていた健一は、親父の後を継いで政治家となるべく、大臣の秘書となった。
高校一年の時、隣のクラスにいたイチビリの具志堅は、オリンピックのゴールドメダリスト。
野球部のキャプテンで、体の大きいあばた面の藤沢は、「俺は今、○○組のナンバー・ツーや」ドスの利いた声で語った。
一番仲の良かった慶三は、関西一円にたこ焼き屋のチェーン店を7軒も開店させた。
今、僕の前でカップメンを啜っている匿名希望君は、詳しい経緯はまだ語ってくれないが、一家離散、夜逃げして、今どや街で暮らしている。こいつ、暇なせいか話が良く弾む。
「おまえ、アメリカくんだりまで行って、まだ詩なんか書いてんの。物好きやのぅー」
相変わらず口だけは達者だ。みんな偉くなって忙しい、忙しいと言ってるけど、どん底の匿名希望君は、年中日曜日。
「おまえ、試練を堪え忍べよ。試練に遭ったことはええことなんや」
一年後、匿名希望君から丁寧な手紙が届いた。「その節はギデオンの新約聖書有り難う。あれから教会へ通うようになり、悔い改めてイエス様を受け入れました」
僕は早速返事を書いた。「君が出世頭や!」
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