サンタモニカ大通りをドライブしている時、突然車が傾いた。直ぐにパンクだと分かった。右の道へ入って、住宅街で車を止めた。タイヤを確認していると、
「大丈夫ですか」と、声をかけられた。こんなところに日本人が、後ろを振り返ると黒人の女性が立っていた。
「私の家は直ぐそこよ、トリプルAが来るまでコーヒーでもいかが」
「それにしても、日本語がお上手ですね」
「私、日本に住んでいました」
パンクが直って別れ際に、女は名刺を差し出した。その名刺には女優とだけ書いてある。僕も名刺を渡した。
時が流れて、女から電話が掛って来た。すしバーで会うことにした。
「私の彼、日本にいるの。今度日本に帰る時があったら、彼に渡してほしい物があるわ」
暫くして女とまた会った。
「彼に渡してほしい物は、人形よ」
目の前にビニール製の人形があった。
僕は週末に日本へ帰る用事があった。
「彼は空港で待っているわ、その場で渡してくれれば結構です」
日本に帰る前日の晩、スーツケースの中から人形を取りだした。ビニール製の人形は、硬いが首の所が取れる。気のせいか人形が重く感じる。人形を振ってみた。中でかすかなに音が聞こえる。首の所から開けてみようかと躊躇したが、思いとどまった。
人形は手荷物にした。空港でチェクインを済ませて、出発ロビーで時間をつぶした。人形の事が気になる。思い切って人形の首の所を開けてみる。
ビニールの袋に入った白い粉が出てきた。まさか、コカイン。指の先へ付けて舐めてみた。
間違いなくコカインである。危うく運び屋にされるところであった。僕はコカインをゴミ箱へ捨てた。
女と眼があった。女は空港に来ていたのだ。女は逃げるようにしてその場から立ち去った。
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