僕が若い頃、小料理屋のカウンターの前に座って、オーナーの板前と差しで勝負したものである。当時の僕は、頭は角刈りにしていた。おまけに色白だ。それ故に同業者と間違えられる。
煮物を立て続けに注文をすると、同業者と思い警戒される。先ず、カウンターに座って、おしぼりが出たところで、おもむろに立ち上がって、板前に聞こえるように、うがいをしてくると言って、トイレの中へ消える。
板前と勝負する際、さりげない威厳と風格が必要である。家にいる時は、イメージ・トレーニングに余念がない。料理の知識はさらぬ様子でちらつかす。タバコは絶対禁物だ。
これで全戦全勝、二度ばかり負けた事もある。一人は60代の割烹の板前で、二人目が70代の鮨職人。共に店のオーナーであった。僕の問答に対して、板前は明確な答え持ってくる。僕には歯が立たなかった。惨敗いである。
悔しい思いを、街の場末の鮨屋でブイブイと言わしめた。
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