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2011年8月21日日曜日

鼻の絵




トーマスは、美しい花々の絵を描くのが得意であった。トーマスの絵は、日に日に評判を呼んだ。あっと言う間に、トーマスの評判が全国へと広まった。今や売れっ子の画家である。


トーマスは花の絵を描き続けて、もう30年余りになる。マンネリ化が進み、スランプに陥った。3年間も沈黙が続いた後に、発表された絵画を観て画壇は驚いた。


ハナはハナでも、女性の鼻ばかりを描いて、次々に発表するではないか。世間の声は鼻はだ迷惑。世の中の鼻息を窺う、そして鼻にかける。益々世間に対して鼻を利かしては媚びている。そして、鼻を高くする。最後に後援者の鼻毛を抜く(相手を見くびって、だましたり出し抜いたりすること)。





眠る男




来る日も来る日も、男は眠り続けている ……


一日24時間の内の、3時間ほど男は起きる。一日の日課は食事をして仕事をするだけだ。だが、仕事をする時間は、少なくとも6時間から10時間もある。


実は、男には奇妙な特技があった。眠っている間に仕事をするのである。男の職業は小説家。眠っている間にストーリーを考える。組み立てる。推敲をする。起きたら、ひたすら書くだけである。


3時間ほどしか起きていられないから、遊びには行けない。原稿料と印税が貯まるばかり。男には趣味があった。B級グルメである。毎日出前を取っては食べる。


男には身の周りをお世話してくれるお手伝いさんいる。洗濯に掃除etc。原稿料は、お手伝いさんの給料とB級グルメでほとんどが消えていく。


ある日、男は消えた。行方不明ではない。死んだのでもない。異次元に移り住んだのだ。男はしまったと思った。男が移り住んだ17次元では、一日が十万時間ある。男はたかが3時間ほどしか起きていられない。


男はひたすら眠り続ける。眠っている間中、小説のストーリーが何本も完成する。3時間では書く時間足りない。男は17次元の主に直訴した。主からは、


「3時間も起きてはならない。死んでもいけない。ただひたすらに眠り続けろ」と言われた。


眠る男は、今日も眠り続ける。945億年も眠り続けている。その間、完成した小説は770億冊。書く時間を奪われた男は、17次元の主からかの呪いが解けるまで、永遠に眠り続けるだけ。


新井雅之


 


本欄に掲載の記事の無断転載を禁じます。すべての内容は日本国及びアメリカ合衆国の著作権法並びに国際条約により保護されています。

© 2010 Masayuki Arai


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切断

昨日、母が乳癌で亡くなった。

後を追うようにして、姉も乳癌で死んだ。

年が明けて、もう一人の姉も乳癌で逝った。


今度は、私の番だ。

海外在住の、妹の夫から電話が掛って来た。

妹は今朝、乳癌で息を引き取ったらしい。


私はいたたまれなくなって、病院へ駆け込んだ。

そして、両乳房を切断してもらった。


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2011年6月19日日曜日

父の日




今日は父の日だ。みんなでミルクを飲みましょう。


母の日は、みんなで何をすればよいのですか?


みんなで笑いましょう。母ハハハハ……





2011年6月5日日曜日

全米




アメリカだけが全米と言うのは何故か。中国も全中国、ロシアも全ロシアとは言わない。


リトル東京の日系人博物館で資料を見つけた。


今から90年前、日系人の吉田善兵衛という人が、全米は豊かな国と語ったことに由来する。


本当の様なうその話。





2011年6月4日土曜日

リトル東京七不思議




1. 日米文化会館、北側のアズサ通で、深夜に黒人霊歌が聞こえて来る。


2. サンペドロとセカンドのコーナーに、二宮金次郎の銅像がある。午前3時にウインクをするとの噂。


3. ジャパニーズ・ビレッジ・プラザで、ホームレスが毎晩櫓(やぐら)の上で眠る。


4. 夕刻に瘦身の白人が、頭にバックミラーを付けてジョギングをしている。


5. ホンダ・プラザの近くで、日本人と黒人のコンビが、日本語でストリート漫才やっている。


6. 50歳半ばの男性が、通りすがりの人を呼びとめて、「寿司を握らせておくなさい」と言う。


7. 泳ぐ格好をして歩く女性が、時々出没する。





2011年5月30日月曜日

週末




太郎は店の営業時間を調べた。週末は11時から6時。


週末って何曜日。


金、土、日、それとも金、土、或いは土、日。


週の初めは、日、それとも月。


神様は天地創造の時、第7日目に終わって休まれた。


従って日は、週の最後。


そうなると週末は土曜日だけ。


店長に聞くと、週末は土と日。


しっくりと来ない、太郎でした。





2011年5月19日木曜日

短気




「らっしゃ… ぃ」


「ざるいちめぇ!」


「相変らず早いね」


「こちとら江戸っ子よ、気が短けぇーんだ」


 


「へい、お待ち」


「よぅよぅよぅ、にめぇも頼んじゃいねぇよ」


「さっさと食え、明日の分だ!」





2011年4月28日木曜日

名前




リサのボーイフレンドの名前、何だったかなぁ。


チャビン、シビン、カビン、あっ、思い出した。


ケビンだ。





2011年4月22日金曜日

身だしなみ




真夜中に、B子のアパートが火事になった。アパートの住民は皆避難した。B子は熟睡しているのかと住民は心配した。B子の声が聞こえる。やけに落ち着いている。


「ちょっと待ってください。今行きます!」


刻々と時間が経つ。住民たちは気が気でない。B子が火の粉にまみれながら外に出た。


「化粧をしていたもので」


 


B子は人と会う時、必ず厚化粧をする。今迄に化粧をせずに人前に出たことがない。


 


 





2011年4月16日土曜日

畳




看護師のAは、病院の隣にある看護寮に住んでいた。夕刻の交代まで少し時間があったので、


布団を敷かずに畳の上で転寝(うたたね)をした。 


寝過ごしに気がついたAは、直ちに着替えて化粧もせずに飛び出して行った。息を切らして同僚に謝るA。


同僚たちはAの顔を見るなり、笑い転げた。Aは鏡を見た。頬っぺたに畳の痕がべったりと付いていた。





2011年4月9日土曜日

ドラマの題名




NHKのドラマの題名、何だったかなぁ。


7でもない、6でもない、あっ、思い出した。江(5)だ。





2011年3月30日水曜日

『勤労意欲あり』




32歳になる息子には、全く働こうとする意思が無い。ニートの状態が続いている。そんな訳で、間もなく定年退職を迎えようとしている父親が、ついに業を煮やした。


 


「いい加減にしろよ。みっともないから、さっさと働け」


「ったく、うるせえなぁ、ミートなんだから、ほっといてくれよ」


「なにっ、それも言うならニートだろ」


 


父親は肩を落とした。


息子は外へ出て行ってしまった。


「おい、どこへ行くんだ」


「だからミートだって言ったでしょ。昨日から肉屋でバイト始めたんだ」





2011年3月6日日曜日

UC




私の兄はUCLAで教授をしています。


私の兄もUCCでコーヒーを作っています。





2011年2月20日日曜日

クリスチャンの鮨屋




スタッフ一同に「いらっしゃいませ、ハレルヤ」。「有り難うございました、シャローム」と挨拶をする。


鉄火巻きのことを、ジーザス・ロールと呼ぶ。マグロの赤はイエス様の血、わさびの緑は汗。


一番人気は御霊ロール。通称ハレルヤ・ロール。巻物の中に九つの御霊の実が入っている。


愛(まぐろ)、喜び(こんぶ)、平和(グリンピース)、寛容(かんぴょう)、慈愛(あいなめ)、善意(高野豆腐)、忠実(サーモン)、柔和(たまご)、自制(うに)。


二番人気はズケ。ズケのにぎりの上に、十字架の形をした海苔を張り付けてある。通称、復活一丁と呼ぶ。





2011年2月13日日曜日

掌の小説 2  陰翳(いんえい)




黄昏に金閣寺の庭の池を眺めていると、夕映えに茜色に染まる金閣寺が水面に映っていた。拓也はふと、シャドネール夫人を、モデルにして小説を書きたいと思いに駆られた。


拓也は谷崎潤一郎に深く私淑していた。と同時に劣等感を懐いていた。「谷崎みたいな陰翳に富む文章が描ければ… 」


いつもの悪癖が出たので、拓也は自分の心を省みた。にわかに、こどもが池に小石を投げた。小石は水面を三回はねて沈むと、水面には幾重にも水の輪が広がり、鯉が飛び跳ねた。


拓也の意のある所の片隅が、韓紅に染まっている。額には脂汗が滲んでいた。拓也は見た。池の中に蠢動(しゅんどう)する気色立(けしきだ)つ陰翳を… 。





2011年2月8日火曜日

またの名




フランスのシラク大統領が来日した。


「わが国のTGV(超特急)の技術と性能は、走行中の揺れを除いては世界一だ」


「これがJRのぞみ号か、スピードに関しては互角だな」


「おまけに走行中の揺れをまったく感じさせない。先を超されたぞ!」


お付きの者が大統領の耳元で囁いた。


「またの名を震撼せんと申します」





郷に入っては




日本では父と娘が、あるいは母と息子が、小学校の低学年ぐらいまで一緒にお風呂に入ります。


『となりのトトロ』でも、父親と二人の娘が入浴している場面がありました。


アメリカで同じようなことをすると、何と児童虐待になるそうです。例え同性同士であったとしても、狭い浴槽の中で、肌と肌を接触させることは、児童保護法によって禁じられています。


ゆえにアメリカでは、浴槽のことをバスタブーと呼んでいるのです。





青は藍より出でて藍より青し




フランス現代アートの巨匠、エミール・ゴーンの息子は、絵を描く際に、父親と同じことをするので、周囲の者を驚かせた。


その手法とは、絵筆に絵具をつけるときに、必ずブルーの色を少し混合するのである。


そのことを知ったエミールは、自分と同じように必ず青い色の絵具を付け足しながら、カンバスに向かって絵を描いている息子の姿を見て、思わず叫んでしまった。


「ブルー足す。おまえもか!」





2011年2月3日木曜日

丘




四郎は花子に恋をした。


初めてのデートの日、手をつないで丘に上(のぼ)った。


丘の上には、花が咲いていた。


来る日も来る日も、手をつないで丘に上った。


 


やがて二人は結婚をした。


週末には、手をつないで丘に上った。


年老いてからも、手をつないで丘に上った。


やがて二人は、亡くなった。


 


丘の入り口で一枚の看板。


誰が立てたのか分からない。


看板には「手つなぎの丘」


 


 


*  『丘』のモチーフ。僕と江美子の最初のデート日、サンタモニカの横断歩道を手をつないで渡った。それ以来、手つなぎの横断歩道と呼んでいる。